量子力学の演算子の話

量子力学の講義や演習で、演算子が波動函数に直接作用しているように書かれていることがよくあった。

 \hat{O} \psi(x)

という具合。
こういうのが出るたびによくわからない気持ちになっていた。
波動函数というのは

 \psi(x) = \lt x | \psi \gt

で定義される「数」であり、物理量(一次演算子)の作用する先の「状態」ではないからだ。

今日ようやく謎が解けた。どうもあの表記法は

 \hat{O} \psi(x) = \lt x | \hat{O} | \psi \gt

で定義される量を指しているらしい。

言われてしまえば非常に簡単な話なのだが、量子力学の非可換性に囚われて

 \hat{O} \psi(x) = \hat{O} \lt x | \psi \gt \ \  ?

などと訳のわからないことを考えていた。
要するに、状態を座標による基底で表示したものが波動函数であるから、「一次演算子を状態に作用させたあとに座標による基底で表示する」ということを暗黙に行っていたらしい。
それにより記号の順序が逆になるというただそれだけのことであった。

講義ではふだんあまりブラケット形式を使わずに波動函数での表記を用いているが、調和振動子の問題を扱う場合などにたまにブラケット形式で表記される。
そういう問題で途中までブラケット形式で、途中で波動函数での表記に変わるようなことがあり、そのたびによくわからないという思いを抱いていた。

そういうとき、ブラケットを機械的に波動函数に置き換えてしまえば何故かうまくいくのだけれど、何故そうして良いのかが全く分かっていなかった。
それで、ブラケット形式で表記される一般の量子力学波動力学との間に壁を感じ、「量子力学がよくわからない」という気持ちを増大させていた。


気付いてしまえば非常に簡単な記号の濫用の問題であったのだけれど、気付くまでに随分と時間がかかった。
「よくわからない」という漠然な気持ちを抱いた時に、きちんとその理由を突き止めようとするべきであったのだろう。

もしかすると同じことで悩んでいる方がいらっしゃるかもしれないので、ブログに書いた次第。

<11/6追記>
各所からご教示を頂いたので追記しておきます。

  • 「記号の濫用」などと上では書いたが、 \hat{O} \psi(x) = (\hat{O} \psi)(x)と見ればよいだけ。左辺のような表記は単に括弧の省略が行われているだけであるといえる。
    • これがとても納得できる説明だった。パースがうまくできていなかっただけ……
  • 演算子も座標表示して  \hat{O} \psi(x) = \int dx' \lt x|\hat{O}|x' \gt \lt x'|\psi\gt と見れば、順序は自然。

ありがとうございます。