電子書籍雑感

電子書籍について思うことを淡々と*1

来歴

「いつか会社が潰れたら読めなくなる電子書籍なんてそんな不安なもの買えるか」って昔は言っていた。

転機はAmazonのセールでKindle Fire HD8を買ったとき。これを機に電子書籍を試してみるかと思った。ためしに青空文庫作品を入れてKindleのあまりの組版品質の悪さ*2に愕然とし、別の電子書籍販売サイトを比較しまくった。

今では結構な割合を電子書籍で買って読んでいる。

一番大きな理由は、部屋のスペースが足りないこと。自室に身長以上の高さのある本棚を2つ置いているのに、部屋の床には入りきらない本が散乱している。電子書籍に慣れてきて、強い理由がない限り電子書籍のほうに倒そうという気持ちでいる。

それと、京大から阪大に転学し、自転車通学から往復3時間ほど電車とバスに乗る生活に変わったことも大きい。家を出るときに考えて鞄に本を忍ばせなくても、スマホでお手軽に思い立った本を読めるのは偉い。

セールがあるのもよい。「ちょっと気になってたけど……」な本を買う動機ができる。基本的にネットを眺めるよりも本を読んだ方が得られる体験の質は高いので、ネットに流れがちな体を本の側に向けてくれるのは偉い。

使っている電子書籍販売サイト

大前提として私がよく買っている本の種類を共有しておくと、きらら系漫画、哲学や社会学っぽい本、歴史の本、明治~戦前期の日本文学あたりである。

物理学徒やプログラム書きをやっているが、そういう理系の本は紙で買うことが多い。逆に電子書籍を買うようになって、今まで敬遠していたビジネス書系の本をたまにセールで買って読んだりするようになった*3

BookLive!

booklive.jp

前述したとおり、電子書籍販売サイトごとの組版の質を比較したところ、かなり良かったのがここ。

凸版印刷の子会社で、蔦屋、東芝NECの資本が入っている。出版社系ではないからいろんな出版社の本があるし、凸版印刷ならそうそう潰れないかなという気持ちでここをメインで使うことにした。

戴冠として、網羅性については問題ないと思う。ここで検索して出てこなかった本はそもそも電子書籍版が存在していなかったということが多い。

1日1回引けるクーポンガチャがあり、例えば「実用書・ビジネス書全品が10冊まで15%OFFクーポン」とかが出てくる。有効期限は1日。また、1回だけ引き直せる*4。ガチャのデザインに品がないといわれると何も言えないが、「そのジャンルならこれ買っておくか」ができるので、体験としては悪くないと思う。私はやんわりと本の購入を後押ししてくれるサービスが好きなのかも知れない。

一方問題点を挙げると、セールが渋めなことが大きいかなと思う。「Kindle電子書籍サイトでセール中」というときもBookLiveが対象になっていないことが多い気がする。

閲覧環境の面では、Androidアプリは問題なし。ストレス無く文字が読める環境が用意されていると思う。Windowsアプリはもうちょっと頑張って欲しいかな。特に高精細(HiDPI)環境に対応してほしい。

目を引くところは無いけれど、総じて無難にできていると思う。

BookWalker

bookwalker.jp

角川*5直営の電子書籍ストア。角川以外の本もあるが、漫画・ライトノベルに強くそれ以外はあまりないという印象。

私が使い始めたのは最近(3週間前)。使い始めた理由は単純明快で、この前の芳文社70周年記念1冊77円セールがBookLiveでは行われていなかったため、別のサイトを探す必要があったから。その中でこれを選んだのは、なんとなくビューアーがモダンな雰囲気だったのと運営母体が大きいというのが理由として大きい*6

閲覧環境としては、Androidアプリは特に問題なし。小説だと余白などの設定をかなり細かくできる。Windowsでは、Windows向けのビューアが開発終了していてWebブラウザで読むことになるが、漫画では問題ない。小説向けはもう少し調整が効くと嬉しいか。

前述のセールで250冊ほど買ったので、そのままでは本を探すのが難しく、「本棚」機能を使ってみることにした*7。この本棚機能はわりと独特(たぶん)で、単なるリストではなくて「25冊並べられるマガジンラックに取捨選択して並べる」といった風情。25冊でなく16冊や49冊の本棚も選べるが、とにかく有限なのが特徴。 「ここに並べるといいかな~」とか考えつつ本を選んで棚に入れていくのは、やってみると案外面白い(一気に買いすぎたために面倒であったのは否定できないが)。

電子的なものを買うと今ひとつ実感が沸きにくいところがあるが、こうやって一冊一冊と向き合うと買った本に愛着も沸いてくる。面白い機能だなと思う。

もう一つ面白かったのが、「本棚連携」サービス。

「別のサイトで購入した本がBookWalkerでも読めるようになる」というサービスである(まぎらわしいが、前述の本を並べる「本棚」機能とは関係ない)。その数少ない「別のサイト」の中にたまたまBookLiveがあったので連携をしてみたところ、確かにBookLiveで買った「Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ」全2巻と「新約 とある魔術の禁書目録(11)」がBookWalkerの購入履歴に追加された。なぜこの3冊だけなのかと思ってヘルプを読むと「KADOKAWAグループ各社の書籍(一部対象外あり)」だけが対象とわかった。なるほど、出版社運営の電子書籍販売サイトと書店運営の電子書籍販売サイトの間だからこその協定である。

BookWalker方面の一方通行でしかないこと、一度連携させると何があっても解除できないことなど難点はあるが、電子書籍販売サイトが乱立する中で、この試みは良いと思う。もっと広がってほしいものである。

他、ちょっと便利だったのは本を読み終えたときに読書メーターに飛べる機能。これを見るまで知らなかったのだが、読書メーターは買収を経て角川系列になっていたのである。

一方、難点の中で最も大きいのは、ポイント(コイン)の有効期限が短いことだろうか。

ポイント(コイン)は、基本的に「購入日より5ヶ月後の月末」に失効する。前述の「初回購入50%還元」に至っては、特例的に「購入日の翌月の月末」に失効である。ポイントを失いたくないなら、それなりの頻度で使う必要がある。

もう一つ、どうしても言いたくなってしまったので、多くの人には関係の無い難点を挙げておく。

BookWalkerは海外向けにもやっているので、海外向けサイトにアクセスすれば日本人でも英語版の漫画・ラノベが買える(アカウントは日本語版と共通)。それでいくつかラノベを眺めてみたのだが、……組版の質がひどすぎる。従属欧文っぽい書体。斜体はイタリック(斜体用にデザインされた文字)ではなくオブリーク(ふつうのフォントを機械的に斜めに歪めてつくった文字)。そしてベースラインも揃っていない。

海外のオタクはあれで満足できているのだろうか。早急にどうにかしたほうがいいと思う。Kindle組版がひどいと散々文句を言ったが、やっぱり海外の事情には目が行かないという話なのかも知れない*8

結語

組版についての文句ばっかり言っていた気がする。本のめんどくさいオタクになってしまった。

今の電子書籍の仕組みは、デジタル情報の「コピーが無劣化かつ容易にできる」という性質が、書籍と相性が悪いということに根ざしている。もうちょっとどうにか上手い方法がないのかなと思うところである。

最初に挙げた、昔思っていた不安の材料は、今も解消していない。私が単に易きに流れてしまっただけだ。

とはいえ、易いものがサービスとしては正しいだろう。

今はかつてない出版不況であるという。「新時代の出版」たるWebメディアが盛んになっているのだから、それと競合する書籍出版が不況になるのは当然のことだろう。しかし、「無料」が当たり前になってしまい広告が猖獗を極めるWebの世界と違って、セールとは言ってもお金を出してものを買うのが当然の書籍の世界には別の道が残されていると思う*9

そんなわけで、適度に易く、電子書籍にも頑張ってもらいたいと思うのだ。

*1:しっかりした文章を書こうとするといつまで経ってもブログを更新できないので……。

*2:売り物にしちゃだめなレベルだと思う。

*3:正直その手の本をめちゃくちゃ馬鹿にしていたけど、案外悪くないなと思う。いまのところ、ハヤカワ文庫でSFに混じって出ているものが、抵抗が少なくて良い。

*4:SNSにシェアすると引き直せる」という触れ込みだが、シェアボタンを押して出てくる投稿画面をそのまま閉じても問題なく引き直せる。

*5:今はKADOKAWAとローマ字社名になってるけど面倒なので漢字で通すことにする。

*6:それと「初回購入額の半額分ポイント還元」というキャンペーンがあるのもあった。初回に一気に買うほどお得だが、200冊までしか一度に購入することはできないようである。

*7:本棚機能は形は違うもののBookLiveにもあるのだが、まだ25冊ほどしか買っていなかったので必要を感じず使っていなかった。

*8:なお、日本の電子書籍販売サイトでも日本語書籍の組版がひどいところはたくさんある。一番酷かったのは「文字を4分空きくらいで組み、句読点が入るときはその空きに押し込む」という明治時代さながらの組版をやっていたところ。びっくりした。

*9:これはダン・アリエリー『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』(早川書房)でかじった行動経済学の知見による。